過去の旅と今の旅、3つのルール

バックパックを背負って旅に出るのは何度目だろうか。

初めて一人で旅行に行ったのは、中学2年生のときだった。自転車の後ろに荷物を積んで、竹芝から伊豆大島行きの夜行フェリーに乗った。甲板から見えるビルの群れはとても綺麗で、僕は東京の夜景が美しいとそのとき初めて知った。

大学1年の夏には自転車で北海道を回った。人類学をやってるというアメリカ人のお兄さんから、日本文化の面白さを話して聞かされた。同じものを見ても、見方が異なればまったく違うものが見えるのだと知った。彼は日本で研究職を探していると言っていた。今は奥さんに食わしてもらってて、この国に人類学者のポストはぜんぜんないんだ、と。「でも運が悪いことに、僕はこの国が大好きなんだ」。

初めて海外に一人で行ったのは大学2年生の夏だった。北タイを2週間かけて回った。それ以降、長期休暇のたびに僕は東南アジアにいた。休学してミャンマーの友達と民主主義について語り合って、卒論はタイの少数民族について書いた。

いま僕はモスクワにいる。これが何度目の旅かは分からない。空港のロビーでこうして過去の旅を思い出しながら、他の旅人と立ち話をしていると、これまで通り過ぎてきた町で、何もわからない僕を助けてくれたたくさんの人たちの顔が浮かぶ。

僕はこの町もまた通り過ぎていくだろう。でもいつも新しい町に着くたびに思う。この町を「通り過ぎる町の一つ」にはしたくないと。少しでもこの町を、僕にとっての「かけがえのない町」に近づけたいし、少しでもこの町にとっての「通り過ぎていく観光客」から脱したいと。でもそれはとても難しいのだ。

今回の旅では3つのルールを決めた。
・遠慮しないこと
・かっこつけないこと
・遠くの友達ではなく、目の前の人とつながること

「旅の恥はかき捨て」を徹底してなんでも周りの人に聞く。したいことはしたいと言うし、したくないことはしたくないと言う。仕事のメールはするけどSNSは減らす。

これは旅じゃなくても、日常で出会ったものを楽しみつくすための秘訣かもしれない。偶然起こった出来事、美味しい食べ物、すれ違う人たちとの出会いを存分に味わうための。

今回はどんな町でどんな人たちと出会うんだろう。