おばあちゃんが年越しそばを打っていた納屋は、暗くてホコリっぽい匂いがして、奥の暗闇に何かが住んでいるような気配がした。
僕が生まれるずっと前に母屋として使われていた建物で、年末年始に祖父母の家に預けられてた僕は、おばあちゃんが手際よく蕎麦を打つのをよくそこで眺めていた。
昔は「除夜の鐘を聴くまで寝ない」なんてがんばっては気づくと朝になってたけど、
最近は家族で飲んで夜更かしして、姪っ子・甥っ子の階下をはしゃぎまわる声に起こされるようになった。
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『この世界の片隅に』という、こうの史代原作の映画が良くてついつい二回観てしまいました。
呉に嫁いだ女の子が主人公のアニメ映画で、昭和10年代の市井の人々が生き生きと、柔らかな筆致で描かれる。
『野火』や『火垂るの墓』と同じ時代の話だけど、描かれるのは戦争そのものではなく、戦争の続く時代の呉に生きる主人公すずとその居場所。
特殊な社会状況に飲み込まれていくすず自身の生活が、終始彼女の視点で描かれます。
主人公のすずは、うちのばあちゃんと同い年で、
舞台の呉は、海軍にいたじーちゃんが20代初頭を過ごした町だ。
じーちゃんは駆逐艦に乗って、連合軍の九州上陸を防ぐべく瀬戸内海で訓練して、あと十数日で出航というときに、広島に原爆が落ちて終戦。きのこ雲もよく見えたそうな。
原作どおりの柔らかい絵で描かれるこの呉の町で、すずさんとうちのじーちゃんはすれ違っていたかもしれない。この時代に、この世界の片隅に、たしかに彼らは生きていた。
幸運なことに、僕は自分の20代を好きなもののために使うことができています。
2010年代は、20代を過ごすのにもってこいの、めちゃくちゃ面白い時代だ、とも思う。
経済成長も人口増加も望めないこの国で、今後世界が必要とするであろう幸せのあり方を、僕らは一番に模索することができる。
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さて、年末ですね。
今は1940年代でもなければ、幼少の僕がばーちゃんの蕎麦を打つ音を聞いて過ごした1990年代でもないけど、
僕らはやっぱりこの世界の片隅で、今・ここを生きてる。
そんな風に思うと、来年もとっても良い年になりそうな気がしてきます。
来年もみなさまにとってステキな一年になりますように。