夏の終わりに思い出すこと

何かをしなくて後悔した事はあまりないけど、もっとこれをしておけばよかったと後悔することがある。横浜西口から歩いて10分ぐらいのところにyouという喫茶店があった。

初老のマスターがおいしいハンバーグやナポリタンを作ってくれるお店だ。横浜の駿台予備校で浪人生活を送っていた僕は、昼過ぎに授業が終わる毎週水曜日や夏期講習の帰り、必ずタバコ臭いその喫茶店に入ってコーヒーを一杯頼んだ。

1時間でその日の復習を済ませて、ジャンプやマガジンなどの少年誌を一通り読んだ。

喫茶店には週刊誌の他にも、漫画の単行本がたくさん並んでいて、昼休みのサラリーマンが眠そうな顔で読んでるような成人コミックがたくさんあった。
当時の僕には、コーヒー一杯の値段もそんなに安くはなかったから毎日そこに行くことはできなかったけど、そこで過ごす時間は家族以外誰とも話さなった浪人生活を、優しくかつ鮮やかに彩ってくれた。

おいしいコーヒーを入れてくれたそのマスターが亡くなったのを知ったのは、浪人を終えて丸一年が経った大学1年の冬だった。他の方が引き継いで、その店はしばらく続いたけど、少しして結局閉まってしまった。マスターは亡くなる直前まで、カウンターに立っていたという。

僕はそこにあった本やコミックを全て読みきることができなかったし、週刊の少年誌を読むこともいつの間にかなくなってしまった。

そこで読んだ漫画は、今では僕の骨肉となっているけど、もっとお店に行ってマスターと漫画や料理の話をもっと話しておくべきだったと、今になって少し思う。

高校のときの予備校友達と久しぶりに会った帰り道、夏期講習帰りらしき受験生とすれ違ってそんなことを思い出した。

もう夏も終わりですね。